【データで読み解く】広告運用者の生成AIツール利用状況について|滝井×川手 対談

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キーマケLab 立ち上げに伴い、Web 広告の運用や制作に携わっている方500名を対象に「生成 AI の業務における利用状況」についての調査を行いました。

調査結果をまとめる中で「この調査結果面白いんで、対談形式で紐解いてコンテンツにしましょう」とキーマケLab 監督である滝井に提案し、本対談に至りました。

今回の調査結果は計14枚のスライドにまとめて公開したのですが、今回は特に気になった7つをピックアップし、資料をもとにディスカッション形式で話を進めていきます。

A picture of Takii and Kawate facing each other during a conversation
右:株式会社キーワードマーケティング 代表取締役会長 滝井秀典@hidenoritakii(キーマケLab 監督)
左:株式会社キーワードマーケティング マネージャー 川手 遼一@RKawtr(キーマケLab 編集長)

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目次

Web 広告運用・制作の現場における生成AIツールの利用状況について

「利用率40%」をどう見るべきか

川手

まず今回の調査では「Web 広告運用・制作の現場で生成 AI ツールを使っていますか?」と質問をしました。

結果、現場で生成 AI ツールを「日々使用している」「時々使用している」と回答した方は全体の40%でした。

Percentage of generative AI usage within the industry
川手

実は今年の8月に弊社でも社内の広告運用者を対象に調査を行ったのですが、その時の利用率は34.5%でした。

そこから考えると…

滝井

おーなかなか近い

川手

そうなんです。自分も「かなり近いな」と思いました。

そのため、「生成 AI ツールの利用率に関しては社外のWeb 広告に携わられている方とそんなに差がないのかな」と思いました。

一方、40%という数値に関しては色々と思うところがあります。

例えば NRI の調査結果(2023年5月)では「生成AIのツール・アプリ・ソフトの利用者・トライアル中の方」って10〜20%ぐらいなんです

半年ほど前のデータにはなるのですが、そこと比較するとかなり高い数値のように感じます。

Survey results on generative AI by Nomura Research Institute (NRI)
引用元:アンケート調査にみる「生成AI」のビジネス利用の実態と意向 ~生成AIを仕事に活用しているビジネスパーソンの割合は3.0%、トライアル中は6.7%。 「ドキュメントの要約」、「マニュアルの作成」などへの活用に期待~
川手

率直に、まずこの「40%」という数値について、どう思われますか?

滝井

結論から言うと、この40%という数値は飛び抜けて高い数値であると認識していいと思います

A picture of Takii and Kawate facing each other during a conversation
滝井

例えば、東京駅っていろんな人が日々使われていると思うんですけど、あそこで100人くらいランダムに話を聞いて、「生成 AI ツールを使ってるかどうか」を聞いて40%が「使っている」と回答するかと言えば、おそらくそんなことはないと思います。

地方に住んでいる親戚が仕事で使っているかといえば…そういうイメージもまだ持ちにくいです。

例えば AI 関連の会社で働いているとか、エンジニアや技術者の方とか、そういう職種を除いて、Web 広告運用や制作に携わられている方の生成 AI ツールの利用率はトップクラスなんじゃないかと思います。

世間一般の数値で言えば NRI のデータがイメージに近い。

たぶんプロ野球選手の打率ぐらいの数字になるのが、自然だと思うんですよね

川手

プロ野球の打率で4割…

相当驚異的な数値ですね。
歴代そんなプロ野球選手はいません(笑)

でもそもそも、なんでそんなに高いんですかね?

滝井

最大の理由は広告運用者って基本的に言語を扱う仕事だからじゃないかと思うんですよね

例えば人と話をして画像や動画クリエイティブを制作したり、クライアントさんや決裁権者とコミュニケーションをとったり、言葉を紡ぎだす仕事じゃないですか

生成 AI ツールの大半はプロンプト(命令文)を打つことでやり取りをして利用するケースが一般的ですが、言語を日常的に操作する仕事をやっているあたり、要は知的レベルが高い人が多いんじゃないかと

川手

確かに仰る通りかもしれません。

あと少し話は変わりますが、そもそもこの業界って、「イノベーター」「アーリーアダプター」と呼ばれるような新しいもの好きの人、知的好奇心の強い人が多いですよね。例えば、新しい Google Pixel が出てきたらすぐ買ったり。

そういった「新しいもの好きな人」が多いことも影響しているように思ったのですが、いかがでしょうか?

滝井

それはもう間違いなくあると思います。

あと他にも言語を操作する、扱う仕事をしている人。

例えば書籍の出版に携わっている方、Web コンテンツ制作に携わられている方、このあたりは間違いなく利用率が高いと思います。

川手

他にも、いわゆる「言語」の中には「自然言語」以外の言語、例えばプログラミング言語やSQLみたいなものに携わっている人の利用率も高いかもしれませんね。

言われてみるとそういう人たちの中には、知的好奇心が強かったり、新しいもの好きな人が多い気がします。

実は生成AI ツールを使いこなすのは難しい?

川手

少し話は変わりますが…

ガートナージャパンによる「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル」では生成 AI は、もうピーク期に入っていることが示されています。

Hype Cycle Diagram by Gartner
引用元:Gartner、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年」を発表
川手

先ほど「40%というのはかなり高い」というお話があったかと思います。

ただ逆に言えば、60%の方々は業務では生成 AI にまったく触れていないような状況ということでもあるわけですが、今回の調査結果とガートナー社の見解について、どのようにお考えになりますでしょうか?

滝井

やっぱり現在の生成 AI ツールを使いこなすには、一定の言語能力がないといけないので、限界があるんだと思います

ただ次のステージとして、簡易なプロンプト(もしくはプロンプト無しに)でも優れた生成物をアウトプットできるようになったり、API につないで実は裏側では LLM が動いてて…みたいなケースが増えてくると思います。

自然と生活や仕事の中にも生成 AI が入ってきて「実は生成 AI を使ってた」みたいな感じになってくるはずです。

川手

ありがとうございます。

現実にそうなったら、まさにSF作品の世界みたいですね(笑)

滝井

ファミレスで女子高生が ChatGPT のアプリを起動して「あなたは20年近いキャリアのあるネイリストです。以下の色調の服装に合うネイルを…」なんてやり取りしている絵は想像もつかないけど(笑)

川手

(笑)

A picture of Takii and Kawate facing each other during a conversation
滝井

Instagram や TikTok のレコメンデーションの中に生成 AI によって生み出されたものが組み込まれて、それを見て参考にしたりとか、そういう世界には既になっているからね。

レコメンデーションされたもののうち、生成 AI 由来のものが占める割合が上がってきて、そういう未来になっても別に違和感はないよね。

川手

以前に生成 AI で生成した事を隠して出品された絵画が入賞し騒ぎになったこともありました。

川手

実際それぐらい評価されるような、人の心をつかむものは現時点でも作り出せるということですもんね。

そういった文化的な、生活に通ずるようなものにも今後ますます生成 AI の要素は入ってきますよね。

生成AI ツールの何をどう使っているか?

生成AI は何に使われている?

川手

今回は500人に調査し結果40%、つまり200人が生成 AI ツールを業務利用しているとわかり、使用用途についても確認を取りました。

結果、用途としては1番多かったのは「クライアントワークの文面作成」で、次点は「広告画像の作成」でした

Usage of generation AI
滝井

なるほど。

川手

また使用されている生成 AI ツールの具体例としては、1位が ChatGPT で2位が Bing Chat (現・Copilot)、3位が Adobe Firefly でした。

Generation AI tools in use
滝井

うーん…

川手

ChatGPT がずば抜けて高いのは、登場時のセンセーショナルさ、現時点で生成 AI ツールとしてほぼ確実に第一想起を確立している点からも理解できます。

ただ画像生成 AI の Adobe Firefly がもうここまですでに使用されているのは、正直かなり意外でした

SNS等を見ていてもDALL·E3の登場によって画像生成をやり始める人が増えているような実感があるのですが、このあたりの変化はどう思われますか?

滝井

そうですね。これがさきほど触れた「生成 AIの正しい広がり方」かなって思うんですよね

ユーザーがそこまで複雑なプロンプトを打ち込んだり、専用のローカル環境を構築しなくても、自然と「生成 AI を使う」っていうシチュエーションが今後増えていくと思っていて。

A picture of Takii and Kawate facing each other during a conversation
川手

実際にAdobe Firefly もブラウザ上で、日本語 UI 環境で手軽に操作可能ですもんね。

またそこまで複雑なプロンプトを入力せずとも、高精度なアウトプットが可能です。

滝井

すでに発表されているものも含めて、Adobe のプロダクトや Microsoft のプロダクトにはほぼ生成 AI が組み込まれるようになるはずです。

そうするともう生成 AI を自然と使うようになるはず。

先ほども触れた通り、ユーザーは「生成 AI を使おう」と思って使うわけではないけど、自然に使う感じになる。

そういった形で自然と広がっていくのかなと考えています。

川手

大変な作業はもちろんですけど、日常における「わずか」にも思える作業も、AI の補助が入ることによって楽になることが多いので、その辺りも期待したいですよね。

滝井

例えば、我々が支援しているヌーラボさんもBacklogで、OpenAIと連携した「AI要約」機能を直近でリリースしましたよね。

川手

はい

滝井

あれは情報量が多い「課題」だったりのサマリーを提示し、情報をインプットする際に脳にかかる負担を抑えてくれたりする。

そういう形で、0から1を創造する生成 AI もあれば、既存の情報を要約したり、組み合わせたり、無駄を省いてくれるような領域でもどんどん生成 AI は使われるようになってくるはずです。

画像生成 AI のリスクや恩恵をどうみるか?

川手

テキスト以上に画像生成は、リスクの側面もたびたび話題に上げられますよね。

この点はどう思われますか?

滝井

特に一番怖いのは著作権の問題

シンプルに文字より画像ってわかりやすいので、例えばパクったパクられたみたいな問題でも、文字より画像の方が誰の目にも分かりやすいから「怖くて使えない…」といったことになりやすい。

川手

Adobe の場合、既に Adobe Photoshop などを通じて一定認知されていて安心感があったり、Adobe Firefly エンタープライズ版に関しては「画像を生成した企業が訴訟を起こされた場合、法的に補償する」と公式に表明していますよね。

Adobe Firefly の急伸はそういう安心感があるからこそもあるのかな?と個人的には思いました。

滝井

それもありますね。

川手

また他にも例えば日本国内事例で、伊藤園さんがパッケージや人物モデルに生成 AI を用いた事が先日も話題になりました。

参照:生成AIパッケージ「お~いお茶 カテキン緑茶」シリーズを、9月4日(月)より販売開始。同日より「カテポマイレージキャンペーン」をスタート | 伊藤園 企業情報サイト

今後こういった動きを試みる企業は増えてくるように思います。

あと、実際に獲得領域でも広告に生成 AI をうまく活用し、集客することに成功しているプロダクトも出てきていますよね。

滝井

例えば?

川手

X(旧Twitter)で話題の「オタ恋」はその典型例ではないかと。

滝井

ああ…確かに。あれはすごいですよね。

川手

このように事例がないわけではないですけど「生成 AI 感を出したクリエイティブはうまくいく」とか「その方がコンバージョン率が高い」というわけではないので、そこは冷静に見るべきなんじゃないかと思っています。

ただクリエイティブのアイデア案を出したり、ラフ案みたいなものを量産したりしたい時には、「結構生成 AI 使えるな」と思うことが多いです。

滝井

やっぱり生成 AI って今までの AI ができなかった、人間の創造性の部分にタッチできている所がすごいんですよね。

例えば生成 AI と同じ第3世代 AI を用いた、Google 広告における機械学習や広告の自動入札調整機能は「目標を伝えたら人間じゃ考えられないような入札をしてくれる」ところが肝じゃないですか。

川手

はい

滝井

「人間なら絶対にこんなキーワードにこんな高い入札は出来ない」ってところで打って出て、一定確率で結果を出したりする。

そういうものの、クリエイティブ領域での革命は今後起きる可能性は高いと思います。

例えば人間には想像できないようなクリエイティブを生成 AI は作る事ができて、そしてそれが意外な効果を出して…みたいな、そういうことは今後起こり得るんじゃないかと思います

ただそれをあらゆる業種で実現するにはデータが必要なので、莫大なデータがある企業じゃないと実現は難しいと思う。

まあ Google とか Meta とかは、もう考えていると思うんですけどね。

川手

確かに。そのあたりは今後に期待が持てそうですね!

実際に多くの人が生成AIツールを利用し効果を体感している

多くの人が業務で生成AIツールを利用し効果を体感

川手

使用している200人に対して「生成 AI 使ってみて何かしらの効果を感じましたか?」と質問をしたところ「とても感じた」「感じた」と答えた方は83.5%もいました

Regarding whether you are experiencing the effects of generative AI
滝井

はい

川手

ただその一方で、先ほどのお話に戻るんですが60%の人は全然使ってない。

使ってない理由を確認していくと大きく分けて2つあるのかなと思っています。

1つはマインドの問題ですね。

使用していない人に「なぜ使用していないんですか?」と尋ねたところ「利用しなくても現状困っていないから」というのが特筆して多かったです。

Reasons not to use generative AI tools
滝井

社内調査時の結果でもそうでしたね。

川手

実はそうなんです。社内調査の際もここは理由として多く取り上げられました。またもう1つは環境の問題です。

実際に「生成 AI ツールを使用する際の課題はありますか?」という質問に対し「社内ルールが整備されていない」は2番目に多い回答でした。

Challenges when using generative AI
川手

例えば弊社の場合、今年の3月時点で生成 AI のルール、ガイドラインが整備されていました。

Internal rules regarding the use of generated AI
弊社社内における生成 AI利用に関するルールとガイドライン(日経クロストレンドより引用)
川手

ただ社会一般ではそうではなく、多くの会社は全然導入ルールが整備されていなかったりするような状況にあるため、そういったものが数値に表れていたりするように思います。

そのため自分は生成 AI ツールの業務利用については、個人と組織の両面で課題があるように考えました。

滝井

個人の問題の方は先ほど触れた通りで、やっぱり生成 AI を使いこなすには、知的生産性のレベルが高くないと難しい。

これはそう簡単にどうにかできるものではない。

川手

例えばですが、 Google の(スマート)自動入札の技術が出始めたころ、多くの広告運用者は性能に懐疑的でした。

滝井

そうでしたね。

川手

でも今はもう相当数のアカウントで(スマート)自動入札が導入されていますし、もう自動入札でしか配信できない広告メニューもある。

そんな形で、生成 AI ツールも緩やかに導入が進んでいくと思うんです。個人に関しても、組織に関しても。

結構時間はかかりそうですけど…。

滝井

特に組織に関しては、日本は基本的には保守的な国だし、すごい保守的な経営者とか環境であれば、中々そういうガイドラインを作ろうという話にすらならないんじゃないかな

川手

組織の問題は特にそういった難しさもあるので、
時間もかかりそうですよね…

コスト面で考える生成 AI がもたらすメリット

川手

少し話は変わりますが…

滝井さんは(翌年の)予想記事を直近毎年出されていて、その中で特に直近1-2年はWeb 広告の「マスメディア化(マス化)」というのが、大きな1つのキーワードになっているように思います。

滝井

はい、そうですね。

川手

マス化にともない、Web 広告はかつてよりも多くの人に触れられるようになっています。

滝井

はい。

川手

つまりそれだけ多くの人に触れられるとなると…

特に「エンタープライズ」と呼ばれるような広告主の中にはつい保守的になってしまうというか、「別に Web 広告で 生成 AI なんて使わなくてよくない?」とついなってしまうようなケースもあるような気がするんですが、どうなんでしょう?

伊藤園さんのような例外的な企業ももちろんあるとは思うのですが…

滝井

そうですね。もちろんそういうケースもあるんだけど…

川手

はい

滝井

実は、いわゆる「エンタープライズ」と呼ばれるようなお客さんに直接話を聞いていってわかったことなんだけど…

彼らは Web 広告における生成 AI 活用の観点で言うと、多くは「コスト」に重きを置いて、むしろ積極的に向き合おうとしているように思うんですよね

川手

コスト…ですか?

A picture of Takii and Kawate facing each other during a conversation
滝井

例えば…一般的に知名度があるタレントさんをキャスティングしたら、結構お金がかかるよね。

川手

はい。

滝井

その上、クリエイティブ制作や Web サイト制作の費用も上がってますよね。

川手

はい。上がってます。

滝井

以前だったらサイト制作で100万円出たら良い方だったりもしたんだけど、今はやっぱり1,000万円単位とかで予算も出るようになってきている。

川手

はい。

滝井

これもほんとここ数年の出来事なんだけども、逆に言うと「コストをちゃんとかけなきゃダメ」とか「コストをちゃんとかけなきゃいけないんだ」ってわかったっていうのもあると思うんですよね。

でも「…じゃあどこからお金を捻出するの?」となってしまう。

予算は有限だからね。

川手

はい。

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滝井

生成 AI をうまく使えば、そこのコストを一部でも抑えられる」って期待は間違いなくある。

川手

なるほど…

例えば広告効果が変わらないのに広告の制作コストが抑えられたりすれば、それはもう、とてつもなく甘美に感じる広告主の方は多いかもしれませんね。

滝井

もちろん現時点では生成 AI を使うことによる話題性みたいなものもあると思う。

ただ、中長期的にはそういう面でのコスト効率みたいなものも当然考えていると思う。

もちろん「もう生身のタレントは使わない」とか、そういう話にすぐなるわけではないけど、どんな企業にとっても「コスト効率」ってめちゃくちゃ魅力的なので

そういう意味でいうと、別に生成 AI に対する危機感みたいなものは少ないと思います。むしろ期待の方が大きい

川手

例えばタレントキャスティングをやったお客さんに話を聞くと…

広告の費用対効果の良化や指名検索の増加とか、そういう恩恵を受けることもある上で、例えば被リンクが獲得できたりとか、そういう細かいメリットも多いみたいなんですよね。

滝井

はい

川手

でも契約期間があって終わったら素材を使った部分を変更したり、外部パートナーに依頼している分は変更作業をしないといけない。

でも連絡がつかない関係者の方が出てきたり、作業漏れが出てしまったり…

滝井

生々しいね(笑)

A picture of Takii and Kawate facing each other during a conversation
川手

あとキャスティングした芸能人が不倫してしまう、事件を起こしてしまうだとか、そういう意味でのリスクもありますよね。

滝井

まあそうですね。

川手

そういうものへの対応も含めて「コスト」を重視しているってことなんですかね。

滝井

その通り。

単純なコストとリスクコントロール面でのコストは分けて考えるべきですが、生成 AI ならブランドイメージの毀損リスクを下げることが出来たり、あらゆるコストを抑えられるんじゃないかとか、そういう意味での生成 AI へ期待している企業は大企業に多い。

保守的か善意的かという問題ではなく、大企業のほうがそういった意味で生成 AI に対する期待を抱いてしまう。

特にエンタープライズの場合、動いている金額も大きいからね。

川手

ちょっとその考え方は自分の中にはなかったです。

勉強になります!

生成AIへの各社の注力度合い

川手

生成 AI の各企業への注力度合も調査を行いまして、結果「とてもそう思う」「ややそう思う」が52.8%でした。

Degree of focus on utilization of generation AI tools
川手

直近1年弱でポッと出てきた割には相当高いなという感じですよね。

滝井

めちゃめちゃ高い

これもさっきの4割と同じで、他と比べても高い方だと思う。

やっぱり広告運用者とGoogleの機械学習、機械学習も講義でAIなので、まあ身近ではあるからかな。

正直「よくわかんないけどこれやんなきゃいけないんだな」って、このWeb 広告の世界に触れている経営者だったら誰だって思うもの(笑)

川手

まあそうですよね(笑)

自分は「とてもそう思う」が20.4%いるという点も評価すべきだと思っていて、この企業にいる方ってもう自社でも生成 AI ツールを用意していたり、例えば弊社だと ChatGPT Plus の利用料を経費負担してくれたりすると思うんですけど、そういう企業に属している人が多く含まれているように思うんですよね。

先ほども触れた通り登場して1年ちょっとでこれなので、そういう企業は今後割合としてはどんどん増えていくような気もするんですが…

そんなに甘くはないですかね(笑)

滝井

うーん…やっぱりさっき言った通り、保守的に考えるところも多いので、実際数値が伸びるかどうかは読めないところですよね。

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滝井

僕はどちらかというと「これを使って何かいいこと、だれかしてくれませんか」みたいな需要のほうが高いと思っています

そのため分かっている人に依頼したいニーズは確実に高くなっていくと思う。

ChatGPTをどんどん使える企業っていうのは、そういう言語操作するみたいなことできる社員がたくさんいる知的レベル、知的生産性の高い人たちが多い会社なんですけど、それは世の中では決して大多数ではないので。

川手

やっぱりちょっと特殊なんですよね…

わかりました。

社内以外どこで生成AIに関する情報を仕入れていますか?

川手

今回の調査で社内以外のどこで生成 AI に関する情報を仕入れていますか?という質問の回答が、1位がWebメディア、2位がTV、3位が新聞でした。

Gathering information about generation AI tools
滝井

うーん…

川手

個人的にはちょっと意外な結果でした。

自分はX(旧Twitter)で情報集めることが多かったりするので、Xの割合が高いのかなと思っていたんですけどXは4位で、実はテレビや新聞といった、俗に「オールドメディア」と呼ばれるようなメディアで情報を集めている人が多いという結果でした。

滝井

逆に言うとテレビ・新聞が生成 AI を積極的に取り上げているんだなとかも言えると思うんですよね

川手

はい

滝井

テレビはテレビで、広告主と同じようにタレントキャスティングのリスクが常にあるしお金もかかる、そういうリスクコントロールも大変だから。

例えば人気のテレビドラマが放映後、配信しようと思っても出演者に逮捕者が出たりすると全然配信できなくなっちゃったりする。

川手

確かにそういう話はよく聞きます。

滝井

そのため、メディア各社も大企業の広告主と同じように「AI代替できないかな」っていう点で興味は間違いなくあると思う

現場や制作サイドの方々はともかく、上層部はすごく興味があるはずです。

川手

テレビ番組の編集効率化とか、そういう形でも生成 AI に対して興味を持たれていても違和感はないですよね。

今後期待すること

川手

「生成AIに今後期待することは何ですか?」という質問では「単純作業の効率化」という回答が最多で、次点が「ニーズにあったクリエイティブの生成」でした。

What to expect from generative AI tools
川手

僕と滝井さんで以前対談した時にも、「弊社で使っていくのであれば効率化よりも(効率化は当たり前のように進んでいくので)生成 AI を使った広告の深堀りとか、そういう形での制作作業に活用していきたいよね」といったお話をしたように記憶しています。

滝井

はい。

川手

ただ世の中的には「生成 AI を使って如何に単純作業を効率化させるか」にかなりウェイトが置かれているように認識していて、今回の調査ではそういったものが数値となって現れてきているように思います。

この辺りの数値、どのようにご覧になりますか?

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滝井

うーん…

単純作業の効率化であれば、大半は誰にでもできて、リスクなく多くの人が実装することができるからね。

「そういうのはもう AI がやってくれるんだったらいいな」ってそれは誰だって思いますし、リスクがなければそういう方面から使っていきますよね。

川手

弊社だとまだ100人満たないぐらいの会社の規模なんであまりありませんけど、結構大きい会社だと社内メールだけでもなんかもうとんでもない量が結構飛び交って、文章も規定があったりだとかで大変みたいな話を聞きます。

そういうのも、「全部生成 AI でなんとかならないかな」と思っている人が多い感じなんですかね。

滝井

例えば弊社でも、Excel の関数サポートとかは積極的に生成 AI を使うようにしている。あれはもう人間がやる必要性が全然ないので。

あとこれについては AI ではないんだけど、バナー10個アップロードして、そのバナーに書かれている文字を全部抜き出すみたいな作業とかあるじゃない?

A picture of Takii and Kawate facing each other during a conversation
川手

まあ…ありますね(笑)

滝井

そんな単純作業は人間がやる必要が全くなくて、むしろ人間がやった方がミス件数は増えるし、ミス発生確率も上がると思う。

そういった方面は特に、今後どんどん人間による作業から置き換わっていくはずです。

川手

僕含め助かる広告運用者は多いと思います(笑)

Microsoft 広告について

川手

最後にちょっと本題から反れてしまうんですが…

今回調査を依頼する工程でスクリーニング設問というのを設けてデータを抽出しました。

滝井

スクリーニング設問?

川手

例えば数千人とかに対してアンケートを実施するんですけど、そもそも今回のアンケートの対象にならない人、広告運用経験のない人をアンケートの冒頭の設問で排除する必要があります。

スクリーニング設問はそのための設問になります。

滝井

なるほど。

川手

スクリーニング設問は何問か設定するんですが、その中に「直近1年で運用とか制作経験があるWeb広告媒体は何ですか?」という質問を設定しました。

事前予想で「Google・Yahoo! が多いだろう」ということは想定してたんですけど…

Web advertising media with experience in operationproduction in the past year
川手

弊社でご支援させていただいてるLINEヤフーさんのLINE広告が結構上位にきていて大変喜ばしいのですが…

今回気になったのはそこではなく、特に Microsoft 広告が去年の5月に登場したばかりであるにも関わらず、もう9.6%という数値を叩き台しているという点です

つまり広告運用者10人に1人ぐらいは、すでにMicrosoft 広告の運用経験があるという結果が数値として出たわけです。

滝井

なるほどね。

川手

このあたりの数値、どう思われますか?

例えば、直近1年で Google も P-MAX で新しい広告を生成できるようになったりだとか、アセットの自動生成みたいなところに対してもかなり意欲的に取り組んでたり、Meta も同様に生成 AI を組み込んだ広告主サポートツールの提供を開始したりといったような動きを見せていたりもします。

A picture of Takii and Kawate facing each other during a conversation
川手

でももとを辿れば、全部 OpenAI 然り、出資していた Microsoft が火付け役のように思います。

一連の Copilot(Bing Chat)関連のニュースだったりをみていると、この1年で一気に広告も、広告以外の領域も Microsoft は伸びてきているように思います。

滝井

Microsoft は今、とにかく有利なポジションにいるので。

間違いなくいろんな意味で伸びてる。

でもMicrosoft 広告がなんでこんなに伸びているかっていうと….

川手

はい

滝井

単純に成果が出るからだよね、特に獲得領域において

「CPAが良くて、コンバージョンが取れるから」という理由で使っている人が多いと思う。

特に検索連動型広告ゆえ、コンバージョンの質もいいんじゃないかな。

Microsoft が「うまくやったな」と思うのは、生成 AI を検索エンジンに組み込んだ点にあるんですよね。

同じようなことを Google とかには簡単にできないので、だって影響が大きすぎて。

川手

そうですね。実際 Google の収益の大半は広告によるものですし、広告の収益の大半は検索連動型広告によるものですもんね。

滝井

Google も遅れて生成 AI を検索エンジンに入れましたけど、随分遅かった。

川手

入れたというよりも、入れざるを得なかった。

滝井

そう、もう検索エンジンに生成 AI を入れざるを得なかった

Microsoft は何でそんなことができるかって言うと、Microsoft の収益のうち、Bingってほんと僅かでしかないから。

だからこそチャレンジすることができた。

そして社会的な地位を確立してしまった。

A picture of Takii and Kawate facing each other during a conversation
川手

社会的な地位…ですか?

滝井

そう。

Google 検索はもう自社の収益観点以外にも、社会インフラみたいな見られ方をされてますので、そんなチャレンジはとてもではないが真似できない。

Microsoft は逆にすごくいいチャレンジをしたし、結果的に生成 AI とこの Microsoft 広告が関係あるかというとそこまで関係ないと僕は思うんだけど(笑)上手く話題を作った。

そして結果として「Bingってイケてるよね」とか「Edge使ってみたら悪くないじゃん」とか「検索するとポイントまで貯まるじゃん」とか、そういう評価を得た

ここが大事。

川手

はい。

滝井

Microsoftが今回得た「すごく前向きなチャレンジしてるよね」というイメージはね、すごく得難い武器になると思う。

そういうイメージが上手くできて、Microsoft 広告にも同時にそれがうまく関与したように思う。ほんとにうまくやったなと思いますね。

特に一時期 Microsoft はその、ブラウザ、広告面で圧倒的に負け組というか、ものすごく保守的な事しかできないみたいなイメージが10年前にはあったので。

そこからの逆襲はすごいなと思う。

川手

Bing も過去複数回、売却が検討されていますもんね。

広告に関しては、一度日本からは撤退しています。

滝井

そう、事実上なくなっちゃったから。

川手

そうですよね…。

ところが直近でInternetExplorer からの Edge への移行、Copilot(Bing Chat)のリリース、どれも大きな問題なく実行されました。

今にして思うと、ほぼすべて完璧なタイミングで行われましたね。

滝井

もうちょっと言うと、ビルゲイツとスティーブ・バルマーの二大巨頭の影響がようやくなくなったのも大きいと思う。

Microsoft って結局はあの2人が作り上げた会社だったから。

川手

Microsoft はビルゲイツの退任直前ぐらいから Open AI に出資しはじめていますもんね。

滝井

そう。

いい意味で2人の影響がなくなって、革新的な事ができるようになったんだろうなって僕は思う。

創業メンバーの影がなくなってチャレンジができるようになったっていうのも大きいと思います。

川手

あとやっぱり、検索連動型広告を持っているゆえの力強さみたいなものも当然ありますよね。

検索エンジンそのものを手中に収めているがゆえの…みたいな。

滝井

はい。

やっぱりなんだかんだ言って日本の Web 広告って、いまだに検索連動型広告が4割を占めているので

そして Microsoft は Windowsという OS も、 Edge というブラウザも有している。

日本で市販の Mac 以外の PC を買えばほぼ Windows が入っていて、デフォルトのブラウザは Edge で検索エンジンには Bing が設定されている。

仮にユーザーがブラウザを Google Chrome に変更しても OS をおさえているので、いつでも Edgeへの切り替えをアシストすることができる。

この辺りはとても強力です。

川手

1st Party Dataを相当持ってるんで、そのあたりも強いですよね。
あとそれを活かせる技術力、技術者も確保している点も。

僕らとしてはもっと Bing に伸びてほしいですよね。

特にここ数年は検索エンジンはあまりシェアでも動きがなかったので。

滝井

Google一強みたいな状況がかなり続いていたので。
動きが無さ過ぎてちょっとつまんない状況でしたね。

川手

今後そのあたりの変化にも期待が持てそうですね。

最後に

川手

最後に、本日お話しした内容についてまとめていきたいと思います。

滝井

はい。

川手

今回の調査の結果、Web 広告運用や制作に携わられている方で、すでに生成 AI ツールを業務利用している方はすでに40%に達しているということがわかりました。

この数値については体感値的にも、また過去の他シンクタンクの調査結果の他業種データと比較してみても、高水準である可能性が極めて高いと思われます。

滝井

そうですね。

川手

そして実際に利用してみた上で効果について「とても感じた」「感じた」と答えた方は83.5%もいました。

ただ一方で、「社内のルールが整理されていない」「使わずとも困っていない」といった理由から利用がまだ進んでいない方も多くいることもわかり、今後生成 AI ツールを導入していくにあたり色々と課題があることもわかりました

また生成 AI がもたらしてくれるメリットは業務効率化以外の点でも多くあり「広告主自身が非常に可能性を感じているケースもある」ということについて、滝井さんのお話でもよくわかりました。

滝井

そうですね。

川手

個人的には今回の調査で最大のポイントは「40%」という数値が具体的に出せた点が大きいと思っています

数値にしてハッキリ現れると、例えば自身が広告代理店の経営者でそれよりも自社の数値が明らかに低い場合、「生成 AI ツールを活用して自社の業務効率化を実現できる余地があるんじゃないか?」と考えるきっかけになったり。

他にも、自分自身が業務で生成 AI ツールを使えていないのであれば、業務での使用を検討し始めたり、使用するためのスキル習得を目指したり、そういったものがゆくゆくはキャリアだったりを考えていく上での武器になる日もくるかもしれない。

そのように考えたんですが、いかがでしょうか?

滝井

まずこの生成 AI、ちょうど出てきて1年ちょっとぐらいだと思うんですが、ここまで浸透しているというのはすごいことだと思います。

ただ自分は「生成 AI がすごい」というよりも、むしろ広告運用者にエールを送りたいんですよね

川手

エール…ですか?

滝井

今回の調査結果を見て、「広告運用者ってのはすごく知的生産レベルが高い仕事してんだな」と僕は思いました。

だって ChatGPT にプロンプトを入力して、自分の仕事を効率化するのは、理屈では単純ですけど、そんな簡単なことじゃないので。

A picture of Takii and Kawate facing each other during a conversation
滝井

面白い世界だとは思うんだけど、そんなにハードルの低い世界ではないから。

広告運用ってのは知的生産レベルが高く、とてもやりがいのある仕事なんじゃないかなって、個人的には強く思いました。

川手

言われてみるとそうかもしれません。

結構プロンプトって打つのにもロジカルシンキングが必要だったり、逆に「どうすれば望まないものをアウトプットさせないか」とかも考える必要があったりしますよね。

滝井

何より他者への想像力もいる

論理力、言語力も必要。

ちょっと裏側を推測する能力も必要。

あと遊び心もないとダメ。

川手

想像力…遊び心…確かに….

滝井

「ちょっとAIと遊ぶ」
「AIと会話してみたい」
「AIと一緒に遊ぶ」

…みたいな、そういうのがないと難しい。

川手

「1回やってみてダメだったから触らない」とかじゃなくて、何回かやってみて「自分の方に非があるから次はこう改善して…」みたいな試行錯誤する力みたいなものも必要ですね。

滝井

エンタメ力というか。遊ぶ感覚がないと能動的に生成 AI を使うのは難しいと思う。

そのため、この結果を見て「やっぱり広告運用者って遊び心ある人たちが多いんだな」と思いました。

川手

例えばですけど、こういう長くて、読んですぐ取り組んだら即広告の成果につながるわけではないような記事を最後まで読んでくれる人たちって「遊び心」がありますよね(笑)

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滝井

間違いない!そうです!(笑)

素晴らしいことだと思います。

川手

そういう人たちのために、いつ役に立つのかはわからないけど、将来きっと役に立つコンテンツを作っていければと思うので。

滝井

そうですね!

ほんとにそこ大きいんじゃないかな。

そういう知的好奇心とか遊び心とか、もっと言うと人間探求心みたいなものであったり、実は世の中からすごく求められていることだったりするから、とても大事だと思います

川手

分かりました。本日はありがとうございました。

滝井

はい!本日はありがとうございました。

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企画・執筆・編集・インタビュアー:川手 遼一
対談協力:滝井 秀典
撮影:Taka(Takayuki Kohno)

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